先日、「ALL TIME BEST 矢沢あい展」を見に行ってきました。
漫画家矢沢あいと言えば、代表作には「天使なんかじゃない」、「ご近所物語」、「NANA」などがあり、特に30代以上の女性なんかはどれか1つは見たことがあるという方も多いのではないでしょうか。
私はまさにリアルタイムで作品を見ていた世代で、1つどころかどれもこれも心に残っているものばかり。
会場では直筆原画はもちろん、当時のふろくや貴重なアイテムもたくさん展示されていて、矢沢あい作品に触れたことがある方ならきっと胸が熱くなりますよ~。
Contents
コンセプトは「 ALL TIME BEST 」
矢沢あい展は本人が総監修した展覧会ということで、会場はこだわりのたくさん詰まったベストアルバムのような構成です。
音楽仕立てにしたこのトラック形式、はっきり言ってオシャレすぎませんか?
【Track0】STREET TRAD
まず初めは、近年の画業であるメンズストリートファッションの本「ストリート・トラッド」のコーナーからスタート。
佐藤誠二朗さんという方の本なのですが、矢沢さんはこの本の挿し絵を描かれているんだそうです。
矢沢さんの最近のイラスト活動については知らなかったのですが、どれもおしゃれで味のあるものばかり。
今回の矢沢あい展で、順路の出だしに矢沢あいの著作物でないストリート・トラッドから始まるのは違和感があるような気もしますが、これは矢沢さん本人の意図があって配されているとのこと。
展覧会プランを自分で考えた時に、まずは会場に来てくれた人が最初に目にするのがこの新キャラの男の子3人だといいなと思ったんだそうです。
「私のことを今も心配してくれてる読者の皆さんにも、会ってもらいたかった。イラスト自体もすごく楽しく描けたから、その幸せなエネルギーも伝わるかな」という想いが込められているんだそうです。
印象的だったのがこちらの靴の絵。
ドクターマーチンのブーツを描く時に、漫画だと細部を正確に描く余裕がないので「コマによって穴の数が違う!けど時間がないしまあええか!」と矢沢さんはなるらしいのですが、それに比べて挿し絵のお仕事は、細部までしっかりと描き込めるから満足度が高くて楽しい仕事なんだとか。
「描いていて楽しい」という気持ちを感じられるのってきっとすごく大切なことで、それでいてすごく難しいことなんだろうな〜。
あえて語られてはいませんでしたが、このコーナーを最初に持ってきたのはストリート・トラッドへのリスペクトの気持ちもあったり、実は宣伝(笑)も兼ねているのではないかと個人的には考えちゃいました。
【Track1】Paradise Kiss
蝶と蜘蛛のイメージが強いパラダイスキス。
蝶が紫で、蜘蛛がジョージをイメージして描かれています。
蜘蛛の巣にかかった蝶が、最後には飛び立つという展開…まさに紫とジョージを表していますね。
パラキスのコミックスは、なんと矢沢さん自ら製版指定したというので驚きです。
illustratorを使い、表紙も帯も人物紹介も何もかも自分で手掛けたんだとか…凄すぎです。
矢沢さんは凝るのが好きと言うか、きっと描いているうちにアイデアが次から次へと生まれてくるので、普通は人に任せるようなところまで自分でこだわってやってみたいと思うのでしょうか…。展覧会を通して、なんとなく今まで知らなかった矢沢さんの生態が垣間見れてきた気がします。
実は蝶の種類も一巻ごとに違っていて、毎回カバーのキャライメージに合わせて変えているんだそうです。
それぞれの蝶を標本風に展示していて、こういう細かな演出も憎いです(笑)
漫画の重要なシーンで出てくるドレスも展示されていました。
もちろん、原画もたくさん展示されていました。
写真ではわかりにくいかもしれませんが、眉毛の角度を修正ペンで調整した跡が見えます。
完成された漫画ではわかりませんが、原画を見たら矢沢さんが時間をかけて丁寧にイラストを仕上げているんだということがよくわかります。
色々なトーンを張り合わせ、一枚の原稿を仕上げるのに一体どれくらいの時間がかかるのでしょうか…
私は素人なので専門的なことはわからないのですが、たくさんの労力を使って、情熱を持って描かれているということだけは伝わってきます。修正ペンの跡がこんなに尊く感じるなんて…展覧会に行くまでは知りませんでした。
【Track2】ご近所物語
ご近所物語と言えば絵柄がガラリと変わって、ポップでカラフルな印象。
展示スペースの柱にはドドーンとこのイラストが。
こってりとした感じを出すために、アクリル絵の具で塗られているんだそうです。
柱にあるのはプリントされたものなので、触るとサラサラでした。
本物のイラストはコチラの額に飾られています。
このイラストがりぼんの扉絵だったのを、なんとなく覚えています。
こちらはフォトショップで描かれているイラストです。
こちらもフォトショップのイラスト。どれも見覚えがあるものばかり。
こちらは色鉛筆とマーカーで書いたイラストに、なんと和紙を重ねてちぎり絵にしてるんだそうです。
写真ではわかりにくいと思いますが、このイラスト、極太マッキーで黒く塗りつぶしている跡がありました。
黒の背景ってこんな原始的な方法で塗りつぶされているんだ…という意外な発見でした(笑)
…と思いきや、これは矢沢さんの独特の方法だとインタビューで語られていました。
ご自身では「印刷して綺麗なら原稿はどう見えてもいいと思っているので原画展には向かないタイプ」と言われていましたが、むしろ逆で、このような酸いも甘いも(?)さらけ出してくれる原画が見れて、ファンとしては嬉しい限りです。
矢沢さんはどんどん新しい技術にも挑戦されるタイプらしく、アナログからデジタルまで、幅広く使いこなしているんですね。凄すぎます。
あと、今回知ったおまけのエピソード。ご近所物語の番外編である「カラフル」というストーリー。
これと別で復活編のストーリーも描かれていて、タイトルはカラフルの対になるように「ミラクル」と付けられていたはずなのですが…当時の担当さんにうまく伝わっておらず、サブタイトルが入っていないままなんだとか…。
読者の方は手持ちの本に各自タイトルを入れていただけたら…とのことなので、私も自分で「ミラクル」と記入しておこうと思います(笑)
【Track3】天使なんかじゃない
矢沢さんファンの中でも、天使なんかじゃないが一番好き…という方が結構多い気がします。
天ないの時期はまだデジタル技術がなかったのか、手描き感満載の原画をたくさん見ることができました。
こちらはいつも明るく元気なケンちゃんの、ちょっと切ないシーン。
こちらは翠ちゃんの切ないシーン。「つけペン」で描かれています。
使う道具がアナログなので、パラキスやご近所の時とまた少し雰囲気が違う気がします。
トーンの上のセリフはどうやっているのでしょうか?まさか、一文字ずつ貼り付けているんでしょうか…?
漫画を読むのは好きですが、このあたりの技術はさっぱりわかりません。
めちゃくちゃ懐かしい壁の落書きもありました。
天ないファンの方なら、ジーンとくるのではないでしょうか。私も、作品を読み返した数だけ何度も見たイラストです。
天ないは、登場人物それぞれが魅力的で、一人一人の人生がきちんと見える作品だと思います。
主人公の翠ももちろん大好きですが、私はマミリンも大好き。
晃も大好きですし、他にも名前を挙げればきりがありません。
矢沢さん自身も天ないをきっかけに、人間を描くのが面白くなって、登場人物が自ら悩んだり成長したりしてくれるようになったと語っています。
昔は脇役が主役よりも目立つのはダメだと言われていた時代ですが、当時の担当さんが自由に描かせてくれる人だったことも相まって、思う存分無駄に脇を描くようになったらしいです(笑)
時々やりすぎてしまうそうですが、その「無駄に脇を描く」ことこそ、今となっては矢沢あいの作風の魅力とも言えるのではないでしょうか。
【Track4】下弦の月
下弦の月は、矢沢さんがりぼんを出ようと決めた頃に描かれた作品。
前作のご近所物語や、天使なんかじゃないと比べると少しシリアスで暗い雰囲気なのが印象的です。
矢沢さんご自身は「明るい曲が続いたからバラードを聴きたい」という感覚で描いたんだとか。
連載当時私はまだ子どもでしたが、ミステリアスなストーリーにどんどん引き込まれていきました。
読めば読むほど面白くなっていき、最後には伏線も回収されて感動する話です。
ちらっと出てくる澄代とのやりとりも素敵…
「コミックス3巻分くらい」というゴール時期が確定していた作品だったらしく、その分構成もしっかり練られたのかスッキリと完結しているところも大好きです♪
読者に一気に読んでもらうために、漫画特有の柱の空きスペースなどには、文字でなく絵で埋めるなど工夫していたそうです。
物語のテンポ感を重要視されただけあって、全てを通して本当に一本の映画のような仕上がりになっていますよね。
「明るく元気!」なイメージの主人公が多いりぼんの中では、センセーショナルなシーンも出てくる矢沢作品がなかなかの異色感を放っていましたが、逆に引き立っていて面白く感じたり、とにかく絵が綺麗なので、子どもながらに楽しんで読んでいた記憶があります。
目の周辺だけ描かれた何気ない一コマでも、原画を見るとこれだけ修正した跡が…
本当に「魂を込めて」漫画を描かれていたんだな、というのが伝わってきて今回の展覧会でますます矢沢さんのことが好きになったような気がします。
「さらっとなんでも描けちゃう漫画の天才」なのではなく、矢沢さんは苦悩しながら情熱を持って漫画を描かれていたのかもしれませんね。
【Track5】NANA
りぼんより対象年齢が大人向けのクッキーの創刊と共に始まった漫画です。実写映画化されたり、音楽でメディア展開されたりで普段は漫画を読まない方でも「NANAは知ってる」という方も多いかもしれませんね。
当時小学生だった私はある日、本屋さんにクッキー創刊号が並んでいるのを発見…矢沢さんの新作ということで手に取ってみたのですが、さわりを少しだけ読んだだけで「何これ、面白い~っ!」と衝撃を受けたのを今でも覚えています(笑)
記念すべき1話のイラストも展示されていました。
過去の作品では「りぼん向け」でないといけないことを意識されていたようですが、クッキーで漫画を描くようになってからは自分の描きたいように描けるということでのびのびと楽しんで描けるようになったんだそうです。
さすがに心境の変化までは知りませんでしたが、NANAの連載の頃からよりイキイキと描いている感はついていっている読者としても感じていて、読んでいる側もより楽しめるようになったと思います。
毎回、ハラハラドキドキして続きどうなるのー!?と学校でもよく話題になっていました。
会場にはNANAのスタンドマイクも展示されているという、粋な演出。
ファンサービスたっぷりで嬉しい。
個人的には、初期の頃にあった食卓をステージにして歌うシーンも大好きなんですけどね。
めっちゃ余談なんですが、映画化された当時、中島美嘉がNANAを演じたのがかなりハマり役だったと昔も今も思っているのですが、現代版でもしもう一度やることがあるなら平手友梨奈なんかもNANAのイメージにぴったり合うんじゃないか?なんて思ったり。
今は休載している物語ですが、いつか続きが描かれることがあるのならまた読みたいです。
最後に、NANAと天使なんかじゃないの晃のコラボしたイラストも展示されていました。
こちらは今回の矢沢あい展のキービジュアルにもなっていますよね。
お似合いの2人で全く違和感がありません。
NANAの連載当時も、この2人がお似合いかもというコメントをどこかで見たような気がします。(うろ覚え)
【非公開】Special Reelコーナー
会場は基本的に撮影OKなのですが、一部エリアは撮影禁止の非公開エリアになっていました。
非公開と言っても撮影が禁止なだけであって、会場に足を運んだ方なら誰でもじっくりと見ることができるので心配ありません。
内容は詳しく書きませんが、矢沢あい作品の歴史から有名人とのコラボ作品まで、幅広く展示されていてかなり見ごたえのある内容でした。
矢沢さんが4歳の時に描いたという幼少期のイラストもあるので必見です。
当時を思い出して胸アツな懐かしい品物があったり、知らなかった!と思う作品もあったり。
このタレントさんともコラボしてたんだ!こんなのも手掛けていたんだ!という発見があってまたさらに作品を見てみたくなりました。
グッズコーナー
展示スペースが終わって出口を出ると寂しい気持ちになりますが、実はまだこれで終わりではありません。
グッズ販売コーナーが設けられていて、余韻に浸りながら買い物をすることができるのです。
クリアファイル
ポストカード類
復刻版のふろく(激アツ)
これ、持ってました~。懐かしすぎてジーンとくるのを通り越して笑ってしまいました。
封筒セット。これも持ってました~また見れて感動です。
スドーザウルスやベリーちゃん人形も
ヘアゴムは売り切れてました
NANAに出てくるイチゴのペアグラス
展覧会を見た後だどついつい欲しくなります…と思ったら既に完売でした(笑)人気すぎ…。。。
アクリルスタンド
これはかっこいい!!ほしい!!
…と思ったら、またまた完売でした(笑)どんだけ~!
マルチケースやメモ帳(可愛い!)
ルピシア の紅茶ともコラボしていました。似合う!(でももったいなくて飲めない…)
NANAに出てくるキャラをイメージした香水もありました。
案の定完売しまくっています(笑)
香水と言えばヤスのイメージ…どんな香りなのか嗅いでみたかったです。
ヤスの香水のミドルノートには「タバコ」も入っているんですね…色っぽい香りなんでしょうか?ますます気になりますね。
この展覧会の全てが詰まった「公式図録」も販売されていました。
連載当時の心境などもインタビュー形式で細かく記載されているので読み応えがある内容です。
しかもこの本、表紙が蓄音機なんですが…
よく見るとホーンは植物で針の部分はペン先になっています。
音楽と植物と漫画。矢沢さんの好きなものが詰め込まれているんですね。
本当に細かなところまでこだわって凝ったデザインにされていて、創作活動を心から楽しんでいるんだなということがよくわかります。
会場を出てから、私は電車でこの公式図録を読みながら帰りました。どこまでも余韻に浸らせてくれる矢沢あいの世界観は本当に沼のようです。
矢沢あい展の感想
こだわりがすごい!
1つ言えることは、会場のコンセプトから色味や配置、全て矢沢さんが総監督しているだけあって本当に凝った内容になっています。
壁の色一つとっても全てに意味があって無駄なものが何一つないので、「こういう考えでこう設計されているんだ!」と読み解くとさらに面白いなと思いました♪
イラストを描く歴史が面白い
矢沢さんは漫画家として活動されている期間が長く、時代や作品によって使う道具も変わっています。
例えばイラストを描くのはGペンや丸ペン(特に初期)だったり、製図ペンというものだったり、油性マーカーだったり。
途中からはPhotoshopやillustratorを取り入れたり、コンピューターを使ったデジタルでのイラストも積極的に取り入れていってます。
絵の展示と共に、使われた画材やデバイスの紹介もされているので、時代と共に変貌していくツールを見るのも楽しいなと思いました。
ちなみに私は漫画を描く知識は皆無です(笑)
こんな素人の私ですら楽しいので、イラストを描くのが好きだったり、漫画やデザインの仕事を目指す方ならもっと楽しめるのではないかと思います。
展示品の歪みが気になった
展示されている作品が、時々真っ直ぐではなく額があきらかに傾いていることがあり、少し気になりました…。
うーん、なんだろうこの感じ…。コミックス1巻表紙の素敵な色褪せたイラストがこの傾きよう…。
たぶん演出ではないですよね?
私はどちらかというと大雑把なので、普段は全くこういう傾きは気にならないのですが…凝りに凝った矢沢あい展でのこの感じはなんだか少し気になってしまいました。
自分で傾きを直したい気持ちがありましたが作品に触れてはいけないのでグッと我慢…。
巡回している警備員さんに声をかけることも頭をよぎりましたが、静かな展覧会場で水を差すような気もして言えませんでした。
期間限定の特設会場なので、もしかしたらありがちなことなんでしょうか?
ズレがめっちゃ気になる!という作品は数点でしたが、結局スルーしました。
ここでしか見られない作品がいっぱい
例えばこの作品。
この説明書きはこれです。
晃とNANAとのイラストの背景には、過去に出てきた乗り物たちがズラリ。
私は車に疎く車種など全然詳しくないタイプなのですが、勢ぞろいされたら面白くてマジマジと見てしまいます。
改めて細部まできっちり細かく描かれていることに驚きで尊敬します。
入場料1,000円は安すぎる
内容にボリュームがありすぎて、入場料がたった1,000円だなんて安すぎます。
会場では300点以上もの原画やイラストが展示されているので、断片的にですが何作品もの漫画を読み返しているような気にもなるんですが…普通なら漫画喫茶でももっと料金がかかりますよ(笑)
最初は時間が取れたので軽い気持ちで行った展覧会ですが、行ってみたら見応えがありまくりで1,000円以上の価値を感じました。
まとめ:見に行って損はない展覧会!
私は子どもを預けて1人で展覧会に行ったのですが、会場にはベビーカーや抱っこ紐で赤ちゃん連れや子連れできている方もたくさん見かけ、微笑ましく思いました。
おそらく、当時リアルタイムで矢沢あい作品を見ていた方達は今まさに子育て世代なのではないでしょうか。
そして10代や20代くらいに見える方もちらほらいたのですが、今でも矢沢あい作品が世代を越えて読まれているんだ!と嬉しくも思いました。
NANAのような服装で来られている人もたくさん見かけて、矢沢あい作品は様々な世代で本当に愛されているんだという事も実感。
ちなみに私は普通の主婦コーデでしたが…(笑)
SNSで展覧会の感想を報告すると、私の友人たちも次々と時間を作って会場に足を運んでいました。(世代的に同級生の多くが育休中や絶賛子育て中。笑)
後日その友人たちからも「本当に行って良かった!!!」と絶賛の感想。
とにかく感動の余韻がなかなか抜けない、素晴らしい展覧会でした。
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