バックパッカーのバイブルと呼ばれている沢木耕太郎の小説「深夜特急」。
さくさくと読みやすい内容で面白いのですが、実はドラマ版もリアリティがあってかなり面白いんです。
旅好きの方もそうでない方も、一見の価値ありです。
ドラマ版「深夜特急」とは?
主人公の沢木耕太郎を大沢たかおが演じており、3年間かけて全3部作で製作されたドラマです。
詳細は以下の通り。
シリーズ | タイトル |
第1作 | 劇的紀行 深夜特急'96〜熱風アジア編〜(96分) |
第2作 | 劇的紀行 深夜特急'97〜西へ!ユーラシア編〜(93分) |
第3作 | 劇的紀行 深夜特急'98〜飛光よ!ヨーロッパ編〜(93分) |
おおまかなストーリーは原作に沿いつつも、アドリブのようなシーンも多く大沢たかおが実際に旅をしながら撮影をしたんだということが伝わってきます。
シリーズ全3部作の中から今回は第3作「飛光よ!ヨーロッパ編」で、個人的に名シーン、または印象深いなと思う部分をピックアップしていきたいと思います。
劇的紀行 深夜特急'98〜飛光よ!ヨーロッパ編〜
あらすじ
主人公(沢木耕太郎)はイランとトルコの国境を乗合バスで抜け、黒海沿岸のトラブゾン、トルコを経由してイスタンブールへ。
アジアとヨーロッパが混沌としているこの地で、香港と同じような熱気に興奮しつつも、ペロポネソス半島では期待していた温かなふれあいはなく、あるのは空虚な美しさだった。
名シーン・名言集
インドから砂漠を越えた汚れを落とすのだ。信じられないほどの垢が出た。
トルコ風呂に挑戦する主人公。入浴料は500,000トルコリラ(500円)。さっぱりしたが、痛かったと語っています。
路地裏で遊ぶ子供たち、春の光に洗濯物を干す女、そういう人々の生活を見ることができて僕の心は安らいだ。
トラブゾン(トルコ)の街並みを眺めているシーン。知らない土地でも、こういう光景は心癒されますよね。
そうなんだ、黒海の向こうはロシアなんだ。
トルコなのにロシアンバザールが開かれていて、売る人も買う人も皆ロシア人。マトリョーシカ人形など、ロシアから流れてきたたくさんの品物を見てしみじみと思うのでした。
はるか遠くの国に来たはずなのに、なんだか日本に近づいているような気さえした。魚を食べたというだけで、ただ海があるというだけで。
イスタンブールでサバサンドを頬張るシーン。久しぶりに食べた素朴な魚料理に心が弾んでいます。
イツモ、コンナハナモチデスカ?
ーそれを言うなら「鼻持ちならない」。
トルコの絨毯を買わないかと、熱心に進めてくる「ハナモチさん」。絶対に買わないと断り続けるも、何度かやりとりしているうちに翌日はトプカプ宮殿をハナモチさんの奢りで観光するという流れに(笑)その他にもお世話になり、後々とても感謝するのでした。
今まで観光した所でこういう美しさがありましたか?
左側はヨーロッパで、右側はアジア。トプカプ宮殿からの景色はとても美しい眺望でした。
意味のわからないコーランの響きに身を任せながら、僕は声に出さずにいささか芝居めかした調子で「それではこれにて」とブルーモスクに別れをつげた。
世界で最も美しいモスクと評されるトルコのブルーモスク「スルタンアフメット・ジャミィ」にて、内部の美しい構造がふんだんに映し出されていました。
パルテノン神殿は間違いなくどの角度から見ても美しかったが、その姿は信仰の地として生きるでもなく、廃墟として死にきるでもなく、ただ観光地としてぶざまに生き永らえていることを恥じてるようでもあった。
アテネ(ギリシャ)に着いてすぐに、アクロポリスの丘に登り、パルテノン神殿を訪れました。
それ以後アテネのどこを歩いても気持ちが乗らなくなってしまった。何かが起こりそうで起こらない。
今まで旅をしてきたアジアやインドと比べて、何も起こらないのでつまらなく感じてしまう主人公。この後で、アテネを発つことにするのでした。
旅は僕に2つのものを与えてくれたような気がする。1つは自分はどのような状況でも生き抜いていけるのだという自信であり、もう1つはそれとは裏腹の危険に対する鈍感さのようなもので…
長く旅をしてきたことで得た自信と鈍感さ。この2つは紙一重なんですね。
ギリシャのコーヒーはめんどくさかった。
気のいいおじさんがコーヒーを奢ってくれたものの、飲み方に対してのこだわりがものすごく、頼んだことを少し後悔するような表情になっていました(笑)
この時僕が感じていたのは安らかさではなく不思議なことに喪失感だった。大切な何かが体の外に流れ出てしまったような。
地中海を進む船の中で、今までの乗り合いバスでの移動と比べて遥かに贅沢な移動手段だというのに、どこかで違和感を感じている主人公。
旅がもし人生に似ているものなら僕の旅は青年のように何を経験しても新鮮で心を振るわせていた時期はすでに終わっているのかもしれない。
旅を始めたばかりの興奮で満ちたキラキラした時は終わってしまったのでしょうか。一体旅とは何なのか、考え悩む様子が伺えます。
パスポート入れがない。やられた。
ローマの蚤(のみ)の市での出来事。人混みに紛れて露店をウロウロしていたら、スリにあってしまいます。ここにきてようやく気の緩みを自覚した主人公。
冗談じゃない。自分のパスポートを買わなければならないなんて。なんというところだ。
パスポートを失って途方に暮れていると助けてくれるという女性が現れた。ついていってみるとそこには沢山のパスポートが集められていて、その中で自分のパスポートを見つける主人公。ところが取り戻すには100万リラ(約7万4千円)必要だと言われてしまう。どうやら悪徳グループによる犯行らしい。
僕はわらをもつかむ思いで訪ねることにした。
パスポートを取り戻すお金もない。日本大使館で再発行するにも手数料と何日もの日にちがかかる。以前お世話になった「ハナモチさん」に教えてもらっていたローマに住んでいるという日本人の住所を訪ねることに。
そうなんだ。僕のパスポートには今まで旅してきた国々のスタンプが。それは唯一僕の旅を証明してくれるものだったんだ。
一時は諦めてパスポートを再発行することを考えていたが、親切な日本人女性千葉さんが知人のつてをたどってパスポートを取り戻してくれた。主人公は感謝の気持ちから、千葉さんにできることはなんでもしようと思い、仕事や家のことをしばらく手伝うことに。
僕はローマの休日を心から楽しんだ。68歳のアン王女。
パスポート盗難という心配事が解決し、ようやく心からローマを楽しむことができた時間。夫を亡くして一人暮らしだった千葉さん(アン女王)も、彼と一緒に過ごして楽しそうな表情です。
イタリアリラからフランスフランに両替をした。
立ち寄ったモナコで、自動両替機を使うシーン。アジアやユーラシア編では見られなかった光景です。1999年にユーロが導入される前の通貨というのも印象的です。
貧乏旅行者にとって夕日だけが友達だった。
バスを乗り継いでマルセイユへと向かう途中のシーン。夕日だけは世界中どこで見ても癒される気持ちに共感です。
お金と一緒に真理子がついてきた。
旅の途中で資金がつき、日本にいる彼女(松嶋菜々子)にお金の送金を頼む主人公。フランスのマルセイユ郵便局にお金を振り込んでもらうはずが、実際にはお金は振り込まれておらず、サプライズで真理子本人が現れる。彼女は2泊3日をマルセイユで過ごし、再び日本に帰っていくという、原作にはなかった設定です。
アフリカ大陸が目の前に見えた。あの先には別の世界が広がっているのだろう。
イギリス領ジブラルタルのヨーロッパポイントでのシーン。地中海の果てまでやってきて、ここが僕の旅の終わりなんだろうかと考えるも、きっとそうではないだろうという答えを出す主人公。更に西へ進み、ユーラシア大陸の果てを目指すことに。
それにしても長い旅だった。1年3か月。
この旅を支えてくれたのは旅先で出会った人々だったのかもしれない。
ユーラシアの果てを目前に、今まで旅してきた場所を振り返りながら歩いているシーン。色々な人との出会いがあり偶然が重なって、ここまで来る事ができました。
そう僕はバスに揺られてここまで来た。乗り合いバスが僕をここまで連れてきてくれた。
サン・ヴィセンテ岬(ヨーロッパ最南端)で夕日が沈むシーン。今までの旅全てを締めくくる、本当に素晴らしい光景で、流れているBGMも心にしみます。
僕は大西洋に沈む夕日を見ながらこの旅にピリオドを打とうと思った。
今まで旅の途中で何度も夕日を眺めるシーンがありましたが、一番満ち足りた表情をしているのではないでしょうか。
僕の旅はひとまず終わった。でも今、また次の旅が始まったような気がしています。
ロンドンにゴールした暁には「ワレ成功セリ」という電報を送ると友人たちに約束していた主人公。ですが、実際にロンドン中央郵便局から送った電報の内容は「ワレ トウチャク セズ」でした。
Being on the road. 旅は続く。
ロンドンの雑踏に溶け込んでいく後ろ姿で、エンディングを迎えます。まだ旅の途中であるという粋な演出で物語が終わり、最後にかかる井上陽水の「積荷のない船が」心地よい余韻を残しています。
まとめ・感想
全シリーズを通してかなり見ごたえのあるドラマでした。
主人公と一緒にまるで自分も旅をしているかのような気分を味わえ、早く最後まで見たいような、でも終わりを迎えたくないような…そんな気持ちでハラハラドキドキと楽しむことができる内容だと思います。
観光地ではなく人々との出会いや出来事にスポットをあてている場面が多いので、時代が進んだ現在でも違和感なく見ることができるのではないでしょうか♪
積み荷のない船が収録されている井上陽水のアルバム▼
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